べネトゥッティ Benetutti は、ローマ時代に遡る温泉とともに、アルヴィジオナードゥ Arvisionadu という希少品種のブドウからできる白ワインで有名な町。
アルヴィジオナードゥ Arvisionadu 品種の総栽培面積は、サルデーニャ州で、わずか16ヘクタール。
サルデーニャのべネトゥッティ Benetutti とボーノ Bono という2つの町でしか栽培されていない、稀有な土着品種。
昨年の晩秋にコンフラテルニタ・アルヴィジオナードゥの会長でありアグロノモ(農学士)である、ジャンパオロ氏に、べネトゥッティのいくつかのカンティーナを案内してもらった。
もう陽が暮れかけたカンティーナで、タンクから直接試飲させてもらったときは、アルヴィジオナードゥの香りを感じとることはできたが、その真髄を理解するには至らなかった。
その時、生産者の方々から口々に春のフェスタにいらっしゃいというお誘いをうけていた。そのイベントの時期にワインが出来上がるから。
べネトゥッティでアルヴィジオナードゥ品種からワインを作っているのは、コンフラテルニタ(カトリックの信者会)と、そして一般にボトル詰めをしてワインを販売している2つのワイナリーのみである。
どのカンティーナも生産本数は、ごく僅か。
カンティーナ・アルヴィジオナードゥ Cantina Arvisionadu 血液学を専門とする医師のピーノ・ムーラス氏が、年金生活に入る少し前に、父親のブドウ畑を譲り受け、アルヴィジオナードゥ品種を絶滅の危機から守るために 2012年に始めたワイナリーであるが、ブドウ畑の歴史は長い。オルビアの病院の医局長も務めたピーノ氏 Pino Mulas がオーナーのため、ドクターのワイナリーとも呼ばれる。また、敷地内では、6000年前のものとされるドームス・デ・ヤナスも発見された。
100%アルヴィジオナードゥ品種のワイン、ゴチェーアノ G’oceano の生産量は、年間わずか4000本。
自生するサルデーニャの草花やカモミールの香り。バランスがよく、後味のほろ苦みが後を引く味わい。春のゴチェアーノの草花が咲き乱れる小道を散策しているような気持ちにさせられるワイン。
もう一つのワイナリーは、アドリアーノ・デッセーナ氏のカンティーナ・アドリアーノ・デッセーナ
アルヴィジオナードゥ品種のワイン、ファウラFAULA の生産量は、年間およそ2000本。
2016年は、アルヴィジオナードゥ品種100%。
2015年は、アルヴィジオナードゥ 80%、ヴェルメンティーノ 15%、アッリアドルザ 5%。
まろやかで、ミネラル感があり、包みこみこまれるような味わい。
もう50本しか残っていないという2014年のものも試飲させていただいた。
アルヴィジオナードゥよりも、さらに稀有なブドウ品種、アッリアドルザ Arriadorza を栽培している、トーレ氏。
トーレ氏曰く、250本のアッリアドルザを栽培する彼が最大の生産者であるという。
イタリア、そしてサルデーニャの多くの地域を襲った春の寒波のため、トーレ氏の今年の畑は残念なことに全て、ダメになってしまったそう。
ワインのアルコール発酵過程の微生物学の権威、サッサリ大学農学部のファリス教授のお姿も。アルヴィジオナードゥは、ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノやマルヴァジア・ディ・ボーザのように、フロールと呼ばれる酵母の膜を生育させ熟成させる方法も伝統的にとられていた。
このイベントでは、入り組んだ路地を巡りながら、カンティーナをまわることができる。
それぞれのカンティーナで出される、プロシュート、サラミ、コッパ、カポコッロ、パン(パーネカラザウとパーネフィーネ)、チーズ、お菓子等々は、全て Made in Benetutti の手作りのもののみ。どれもこれも、非常に美味しい。
べネトゥッティの人々が、アルヴィジオナードゥを絶滅から守りたいという気持ちが伝わる。
アルヴィジオナードゥを存続させたい、その願いが、一つのイベントとなり、町の人々を結び付け、さらに、町の外の人には、サルデーニャ流のおもてなしへとつながる。
海からも大きな町からも遠い場所にあるべネトゥッティは、観光客が押し寄せることもなく、サルデーニャのふつうの人々が普段どおりの生活をする、本当のサルデーニャがある。
べネトゥッティ Benetutti (Bene-良い、tutti-全て)、そのまちの名前のように、アルヴィジオナードゥの香りと穏やかな空気、そしてべネトゥッティの人々の暖かいおもてなしに包まれた春の1日だった。