オルビアから車で30分足らずのところにある小さな村バドゥル。しかしながら、昨年、トレッキングで初めてトレッキング仲間とバドゥルのバールでカフェを飲んだのが、私にとっては初めて足を踏み入れた村であまり行く機会のない場所でもあった。オルビアの高校に通っていた娘は、パドゥルの子たちは、みんな、ちょっとおっかない感じでお行儀も悪いと怖がっていたが、村の中にはほのぼのとしたムラ―レスが描かれた壁などもあり、バールに立ち寄った程度の感想だが、悪い印象は私の中ではなかった。ただ、ちょっと内陸に入るので、ぐっと濃密なサルデーニャ内陸部感は漂っている。
そんなパドゥル村にワイナリーがあるという。この10年くらい新しいワイナリーが次から次へとというほどでもないが、結構できてきているが、全く聞いたことのないワイナリーで、インターネットで検索してもあまり情報は出てこない。あまり期待をしないで行ってみることにした。
小さな集落のエ―ナスを通って、ワイナリー、ラ・コントラルタを通り抜ける道は、アスフォデーロが満開で、とても美しい田園風景が広がる。ここ数日雨がちで肌寒かった日から一転して、お天気の良かったこの日、かなり気分の上がるドライブであった。
パドゥルに近づくと、モンテ・ニエッドゥが聳え立ち、やや荒々しい風景となる。パドゥル村を通り抜けてしばらくすると左手にカンティーナが見えた。

ブドウ畑では、畑を耕している男性が一人。畑には、ブドウの樹齢は、明らかに30年以上のどっしりとした木々が、コルドーネ・スペロナート仕立てで連なっている。コルドーネ・スペロナートでこの太さの幹のブドウは珍しい。明らかに、ここ10年で新しくできたワイナリーとは違うことがわかる。

そして、ワイナリーオーナーのアウグストが現れた。アウグストの話は興味深い。畑で行っている自然農法から、培養酵母を使わず自然酵母のみを用いるワイン醸造の話。バドゥルは、サルデーニャ唯一のDOCGワイン、ヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラDOCGのコムーネに囲まれているのにも関わらず、DOCGのコムーネから外れてしまった経緯、そして、パドゥル村の人々は昔はみんなブドウ畑を持っていたのに、森林局ができたら、みんなそっちへ働きに行ってブドウ栽培をやめてしまったことなどなど。
ブドウ畑の中に1本の大木が。なんと樹齢400年を超えるコルベッツォロの木。このあたりは、コルベッツォロの木々も生え、「ほら、あっちの緑の影は全部コルベッツォロの木だよ。」とアウグスト。もちろん、巣箱を置いて、あの苦いはちみつも作っている。

苦いはちみつとは、秋に咲く白いコルベッツォロの花のはちみつで、苦いはちみつと呼ばれている。はちみつの瓶にも、「苦いはちみつ miele amaro」と表記されている。殺菌作用などは普通のはちみつより効果があり、値段はふつうのはちみつの倍から3倍の値段だが、サルデーニャの人は、インフルエンザにかかったり、のどが痛いときはコルベッツォロのにがいはちみつをなめなさいという。我が家にも常備しております。
さーて、中に入ってワイン試飲する?まだ、ワイナリー訪問などを観光客向けに開ける準備はできていないけど、どうぞ。なんて言いながらカンティーナの中に入るとびっくり。
ルオゴサントのとっても魅力的な教会、エレモ・ディ・サン・トラーノ教会のように、カンティーナの中に花崗岩がはめ込まれている。このあたりは、花崗岩質の土地。こちらの水道のシンクはなんと花崗岩。

白ワインを1種類試飲したところで、ロベルトが現れた。この間行ったワイナリー、ヴィーニ・ムーラのマリアンナの旦那様であり、サルデーニャのいくつかのワイナリーでエノロゴ(醸造家)をしていて、ロベルトが手掛けるワインはガンベロ・ロッソで最高賞のトレ・ビッキエーリを受賞している。「ここでも、エノロゴしているの?このワイナリー知らなかったよー。娘さんたちは何歳になったの?」などと久しぶりのロベルトとの再会も嬉しいひとときだった。
オレンジワインにもはまっているロベルト。アウグストはロベルトが、ラ・コントラルタで作るオレンジワインのようなワインではなく、白だけれども、20日間マセラシオンをする醸造方法も1種類のヴェルメンティーノワインに取り入れている。

帰るときに、来た時に見たブドウ畑を耕している男性に加え、もう一人の男の人がブドウ畑を耕していた。そして、私たちに「ブドウ畑を耕してみる?いい運動になるよー」などと言いながら、ここでブドウ畑で働く幸せを語ってくれた。今は71歳。小さなころからパン屋さんやお菓子屋さん、ピザ職人として働き、ピザ職人時代は、毎朝4時に仕事から帰ってくるという働きぶりだったという働き者。「家にいたって退屈でしょ。こうやって外のいい空気をすいながら働けるのって本当に幸せ。」とおっしゃっていたのがとても印象的でした。
こちらのワイナリーのワインツアーも2名様から承ります。お問い合わせはこちら。ただし、話しが長くなる可能性もございますので少しお時間に余裕がおありの方向けです。また、こちらのワイナリー、カンティーナ・アウグスト・マンドラスは、生産数が年間8千本とかなり少なく、サルデーニャ内でも売っているお店などは数少ないため、どちらかというと、ワインを購入したい方向けです。

ワイナリーで出してくれたサルデーニャ産チーズ、ペレッタとサラミ、パーネ・カラザウ。こんなにおいしいペレッタとサラミは食べたことがないというくらいおいしいチーズとサラミでした。