今年の秋は、夏の暑さが残るような暑い秋だったのだが、11月に入って、秋らしくなってきたため、「バルバジアの秋」という、サルデーニャ島内陸部のバルバジア地方の小さな村々で行われている秋祭りのようなイベントへ行ってきました。以前に、サルデーニャ島の空港が発行する雑誌にバルバジアの秋についての記事を書かせていただいたのですが、あらためて、バルバジアの秋の魅力をご紹介したいと思います。
バルバジアの秋とは
バルバジアの秋という催しものが、サルデーニャ島内陸部、バルバジア地方の小さな村々で、毎年、秋の週末に開催される。9月の初めの土日のオリエーナ村を皮切りに、12月の初旬の週末まで、週末の土曜日と日曜日に2~3の村々で行われます。もう24年も続いている秋祭りのようなイベントで2022年は32の村が参加。別名でコルテス・アぺルタスとも呼ばれる。コルテスとは中庭、アぺルタスは開くという意味で、いつもは閉じている中庭を訪問客のために開けてもてなすという意味。省略して、コルテスと呼んだりもします。
オフシーズンの秋に行われることから、観光客は、サルデーニャ島の人々が大部分を占める。グループで行動するのが好きなイタリア人は、友人知人たちで大型バスをチャーターしてきたりする人もいる。サルデーニャの人々も、自分が住んでいる町や村とは少しずつ違う文化や習慣や村の様子や風景を楽しむ。参加する村は年々増え、今年は32の村がバルバジアの秋を行っている。
バルバジアの秋の魅力は、サルデーニャの小さな村々のそれぞれの特徴や伝統を知ることができること。観光に力をいれていないような小さな村の場合は、普段は見ることができない伝統的な生活様式などを垣間見ることができ、一方、観光に力を入れている村は、その魅力を存分に見せてくれる。
今年の秋は、夏の暑さが残るような暑い秋だったのだが、11月に入って、秋らしくなってきたため、サルデーニャ島の不思議な仮面、マムトネスで有名なマモイアーダ村のコルテスへ行ってきた。
マムトネスとは
マモイアーダは、マムトーネスで有名な村。マムトーネスとは、古い歴史をもつ、マモイアーダの仮面。イソハドレスとともに、独特のリズムの動きを伴った、儀式のような行進(スフィラータ)をする。通常、12人のマムトーネスと8人のイソハドーレスでスフィラータが行われる。
マムトネスを人と呼んでよいのかは疑問だ。仮面をつけた瞬間に人から、動物のような神に姿を変えるからだ。
この非常に奇異な仮面の起源は諸説ある。父から子へと代々、口述で伝えられてきたマモイアーダの伝統のため、文書で記されたものがなく、その由来は定かではないが、非常に古い歴史をもつことだけは確かだ。19世紀に、行列をしていたという言い伝えから、3千年以上前のヌラーゲ文明時代からの慣わしに由来するという説まである。
なだめ、贖罪の儀式であり、死と再生をも表現する。マムットーネスは闇の姿を持つ。黒い仮面をつけ、羊の毛をまとい、25~30kgの重さの sa Carriga と呼ばれるカンパナッチ(鈴)を背中に背負う。マムトネスが跳ねながら進む行進では、マムットーネスは大きな鈴の音を鳴らす。この大音響は、悪い霊を追い払うと言われている。
イッソハドーレスとは
対して、イッソハド―レは、ややポジティブだ。朱色と白の服を着て、カラフルなショールを腰に巻き、ロープ soha を持つ。イッソハドーレス issohadores はロープを持つ人という意味を持つ。イッソア―ドレスは、儀式の最中に、観客の女性に向かってロープを投げる。これは、吉兆を意味する。マムットーネスとイッソハドーレスは男性のみがなることができるが、このロープを女性に向かって投げるという行為で、女性もこの儀式に参加することとなる。女性は命の源と繁栄のシンボルであり、女性が参加しないわけにはいかないのだ。マムトーネスの頭にかぶるスカーフや、イソハドーレスのカラフルな刺繍など、マムトーネスとイソアドーレスの衣装にも、女性的な要素が含まれている。
マムトネスという名前の由来
マムトネス Mamuthones という名前の由来は、 古代フェニキア人のことをサルデーニャ人が黒い顔を意味するMelaneimones と呼んだことに由来するのではないかと考えられている。また、サルデーニャでは、子供たちを怖がらせるときに、モモッティ Mommotti が来るよ。と言ったりする。モモッテッィとは黒い男を意味する。
また、ギリシャ語では、muthones は、雨をもたらす男という意味もある。
通常、マムットーネスが現れるのは、1月17日の聖アントニオの祭りの日。そして、カーニバルの日曜日と、マルテディ・グラッソと呼ばれる火曜日。しかし、あまりにも特異な仮面と行進から、現在では、様々な催し物の際に、あちらこちらの祭りに呼ばれたりするので、暑くて大変だとは思われるが、時折、夏でも見ることができる。また、マモイアーダ村のバルバジアの秋でも見ることができた。
マモイアーダのサス・タパス
また、マモイアーダのバルバジアの秋では、サス・タパス Sas Tappas というストリートフードのコルテスが何十軒もあり、それらを食べ歩くのも楽しい。マモイアーダでは、友人と会ったときなどに、家やカンティーナで、ちょっとワインを飲んでチーズやパンなどをつまむことをタッパをする (fare tappa) という言い方をする。そこから、2003年にサス・タパス Sas Tappas という名前とアイデアが出たという。
セアダスなどの純粋なサルデーニャの食べ物から、ロバ肉のハンバーガーまで、中庭や路地などに出店がこのコルテスの間だけ、たちならぶ。学園祭の出店のような雰囲気だ。
私たちは、普段は見かけることのない、ロバ肉のポルペット(ミートボールを揚げたもの)やラヴィオローネ、ロバ肉のハンバーガーといった変わったものを食べてみた。
ロバ肉は、クセのない味で、一緒に行ったサルデーニャ人は、おいしいおいしいと大連発。
対して、セアダスのような形だが、中身には、ほうれん草とチーズが入っており、上にはトマトソースとチーズがかかっているラヴィオローネは、一緒に食べたサルデーニャの友人には不評だった。このラヴィオローネは、マモイアーダの近くの村のオルゴーゾロ村の食べ物のようだ。
ロバ肉のハンバーガーは、カンノナウワインで煮込んだ玉ねぎとルーコラのソースが入っており意外にも、とてもおいしかった。
マモイアーダは、ワインでも有名な村。サルデーニャを代表する赤ワインのカンノナウの重要な生産地だ。日本にも輸出している大きなワイナリーから、自家製ワインまで、あちらこちらで1杯50セントから4ユーロで味見することができる。
私たちは土曜日に行ったのだが、日曜日は村長がもう、村は満杯なので、もう来ないでくださいという異例の通知を出したほど、混みあった。夏のサルデーニャも、コロナ前を上回る旅行客で賑わったが、秋とは思えないような暖かい陽気に加え、コロナがほぼ収束したと受け止められているイタリアでは、長いロックダウンや外出規制の反動もあるのかもしれない。しかし、それらを差し引いても、バルバジアの秋がそれほどまでにサルデーニャの人々に浸透し、好まれているイベントであることは確かだ。
以前に、サルデーニャ島の空港が発行する雑誌にバルバジアの秋についての記事を書かせていただいた。そちらもご覧いただければ嬉しいです。
マモイアーダ村で年が明けて初めて、マムトーネスとイソハドレスがスフィラータをする1月17日の聖アントニオ・アバーテの火祭りについても書きました。こちらもご覧いただければ幸いです。